椎茸
半世紀も前、そこは九州のど真ん中熊本県と宮崎県の境に近い秘境で椎葉村と言う。
定かでは無いがうつろな記憶の中で陽の当たらない谷あいで多くの大人たちが丸太に
金槌のようなものでトントン、トントンと白い物を打ち込む姿が脳裏をよぎる。
口々に「駒打ち」と言っていたような!?ほとんど意味の解らないガキの私は興味
深く母親のその姿を追っていた。いつの季節かは思い出せないが、やがて斜めに立てかけ
ている丸太にこぶし大の「きのこ」が実っているのを またたくさんの大人たちが摘み取って
「メゴ」と言うかごを背中に背負って山を降り、家の庭先にムシロを広げ、そこに出して
お日様に幾日も乾していた。やがて、水分が無くなってカラカラになった物を大きな缶に入れ、
どこかに運んで行った。今になってそれが「干し椎茸」と理解できるのだが、年老いた母を
見るにつけ、ふと思うものである。
………まさか、今自分がそれを体験するとは思ってもみなかったが、現在のそれは、丸太に
ドリルで穴を開け、椎茸菌を指で詰めてハウスで栽培すると言う簡単なものではある。

